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焙煎士&バリスタ 小柳貴人インタビュー「一番大切にしてるのは、僕の目の前にいる人が幸せであること」Interview with Takahito Koyanagi, roaster and barista
都心から50キロほど離れた埼玉県東松山市というところに、とってもユニークなコーヒーマンがいるのをご存知ですか?
彼の名前は小柳貴人さん。
昨年日本に帰国するまで8年間ニュージーランドで暮らし、現地の人気店でヘッドバリスタとして活躍。またコーヒーの味覚の正確さとスピードを競い合うカップテイスターズという国際大会では、ニュージーランド王者となりニュージーランド代表として世界大会にも出場した異色の経歴をお持ちです。さらには、NZ国内のラテアートの大会でもたくさんの優勝歴があるというスーパーマンです!
今年から本格的に”コヤナギコーヒーニッポン”をスタートさせた小柳さんに、コーヒーやNZ、今後の生き方についてをいろいろ伺いました。
—どういう経緯でコーヒーの世界へ?
大学の商学部を卒業した後、日本のIT技術関連の会社に就職し、マーケティング部門で働いていましたが、30歳になる頃に一度自分と向き合って、自分がどういうことに向いているのか真剣に考えました。そこで改めて、自分はコーヒーと人が好きだと思ったので、その2つを組み合わせてバリスタという職業が浮かびました。そして31歳になる前に、NZのワーホリビザを2012年5月にニュージーランドへ渡りました。
—経験もなく海外に行って、すぐにコーヒーの仕事に就けるものなのですか?
僕はそれまでほとんど飲食業界で働いた経験がなかったので、職を得ることがすごく大変だったのを覚えています。最初の1ヶ月は語学学校に通い、2週間のバリスタコースを並行して受講したのですが、カフェでバリスタとして働けるような実践的な技術を積むことはできず、最初はどのカフェに応募しても全然ダメでした。半年くらい職がないまま、自宅に家庭用のエスプレッソマシンを購入しひたすら自分で練習して、ある程度ラテアートができるようになり、2012年12月、ついにあるカフェで採用してもらえることになったんです。それまで本当に大変でした。
—半年経ってようやく掴んだバリスタの職は、いかがでしたか?
すごく楽しかったです。仕事にも一生懸命取り組み、オーナーにも気に入ってもらえたみたいで、ワーホリビザを労働ビザに切り替えて働き続けてほしい、とビザのサポートをしてもらい、滞在の延長が決まりました。残念ながらその後そのカフェは閉店してしまい、以前から繋がりのあったスペシャルティコーヒーの焙煎会社「トーステッドエスプレッソ」のマリカさんという方に他のカフェを紹介していただき、そこに移り2年半勤務しました。
その間、NZ国内のラテアート大会などで良い成績を収めたり、カフェの売上が上がったりしたのをマリカさんがみていて、2016年、トーステッドがヘッドクオーターを移転しロースタリーカフェを開くタイミングで声をかけてくださって、そこでカフェマネージャーとして雇用されました。
ー素晴らしいですね。トーステッドはどのようなコーヒーショップなのですか?
トーステッドは、NZ国内に60ほどのカフェを顧客としてコーヒー豆の卸売りを行う中規模のコーヒー焙煎会社です。僕は当初カフェマネージャーとして入りましたが、職域がどんどん広がっていって、バリスタトレーナー、営業サポート、シングルオリジンの焙煎など、カフェでコーヒーを作る以外の業務が増えていきました。
この時すでにバリスタとして働いて4年くらい経っていましたので、自分にとってはバリスタ以外の仕事がとても楽しかったのを覚えています。トーステッドには日本に帰国するまで4年半勤務したのですが、その経験が、のちに自分の焙煎所を立ち上げるのにすごく役立ちました。
—日本に帰国したのはなぜですか?
トーステッドではコーヒービジネスに関するあらゆることを経験できたのですが、それもひと通り習得すると、なんとなくぬるま湯に浸かっているというか、新しいこと、学ぶべきことが会社から降りてくるわけではないとわかりました。そんな中、「自責と他責」という言葉を知り、会社に所属するのは安定しているけれど、どこか他人事というか、人のふんどしで相撲を取る状態だと気付きました。それならば1からビジネスを立ち上げて、良いことも悪いことも、すべて自分で背負い、自分で責任を取りたいと思い始めました。それからまもなくしてコロナで6週間のロックダウンがあって。そこで今後のことを深く考えましたね。
—ニュージーランドのロックダウンはどんな感じでしたか?
スーパーと病院、フードのピックアップやデリバリーがあるくらいであとは外出禁止。一気に全ての日常が止まってしまいました。でも、国から毎週5万円くらいもらえるので、家賃払って少し食べ物買って、とんとんくらいの生活をできていたんです。物凄く時間ができたので、生活習慣をかえたり、料理したりしながら、いろいろ考えて、両親も歳をとってきたし、このタイミングで日本に戻って、自分でコーヒーの焙煎所をやろう、と決めました。
—それで8年間暮らしたNZを離れて、帰国されたんですね。
はい、実家に戻ってきました。ここは、もともと両親の縫製業の仕事場だったんですよ。2020年の7月末に帰国して2週間隔離の後、床の張り替えや壁のペンキ塗りなど最低限の改装をして焙煎所にしました。コーヒーの焙煎会社で働いていたおかげで、どういうものが必要かわかっていたから、2ヶ月間で準備して、すぐに豆の販売所としてオープンできました。
—小柳さんはコーヒーの味覚の正確さを競い合うカップテイスターズチャンピオンシップで優勝して、NZ代表で世界大会に出られたそうですね。
はい。2016年に優勝しました。実は、それまではラテアートの国内大会にずっと出場していたのですが、カップテイスターズにもずっと興味があったので、とりあえず1度出てみよう、とあまり深く考えずにエントリーしてみました。準備期間もなかったので、大会前日に会社の仲間たちと一回だけ練習をしたんです。今考えれば、ラッキー勝ちみたいなところがありましたね(笑)。NZは競技者が30人でリミットなので、日本と比べても競争率は高くないと思います。
—といっても、世界大会でも優秀な順位でしたよね。カップテイスターズで勝つのは、味覚のセンスが一番大事ですか?
準決勝にはいけなかったですが、35か国中9位でした。世界の舞台は自分にとってはすごく良い経験になりました。この大会はだいぶ運も左右するとは思います。3択問題が8問あるので、分からなくても3割の確率で当たります。何度も味を見て迷っていると時間が過ぎてしまうし、急いでやりすぎるとミスをするし、戦略が大事だと思います。それから頼れるのは自分の味覚と嗅覚だけなので、体調を万全で臨めるかどうかも結果に大きく影響すると思います。
—ところで、小柳さんにとってコーヒーの美味しさってなんですか?
僕にとって美味しいコーヒーとは、酸味と甘味のバランスが取れて、その豆が持つ風味やフレーバーが最大限に引き出されているコーヒーだと思います。美味しいコーヒーの液体になるには、生豆のクオリティはもちろん、焙煎、エイジング(焙煎からどのくらい日数が経ったか)、抽出、あらゆる条件がそろう必要がありますね。
—コーヒーの酸味に関して、酸っぱいという人もいますが、それに関してはどういう考えをお持ちですか?
そこですよね。コーヒーの酸味は、焙煎をする人にとっては永遠のテーマかもしれません。たとえば、レモンは酸っぱいけど、はちみつレモンはおいしいね、という人は多いと思います。コーヒーにも、レモンのような尖った酸を持つもの、甘みが引き出され酸味と調和しておいしい味になっているもの、があります。僕は後者がおいしいと思うので、焙煎で酸を残しながら甘みが出るポイントを狙っています。
近年スペシャルティコーヒーの業界では、フレッシュなフルーツのようなフレーバーを出そうとするあまり、生焼けになってしまっているものも多いです。僕のコーヒーは、フレッシュなフルーツというよりは、煮詰めすぎないジャムのような、フルーティさを持った甘いコーヒーに焙煎したいと常々思っています。
この焙煎所に足を運んでくださる方は、コーヒーの酸味が苦手、という方が多いのですが、ありがたいことに、僕の甘酸っぱいコーヒーを飲んでコーヒーの酸味を受け入れられる、という方がすごく多いです。スペシャルティコーヒーは酸っぱい、と思っている方にはぜひ一度飲んでいただきたいですね。
—いいですね。では小柳さんは、なぜコーヒーを続けていますか?
自分好みのコーヒーを飲むために焙煎しているのが大きな理由かもしれません(笑)。あとは多分、人を繋げるためなのかな。ありきたりかもしれないけど、人が人を呼んでその人たちが繋がって、僕はそこに入ったり入らなかったりするんですけど、そういうことがこの焙煎所でよく起こる気がします。
—いいですね。では、人生で最も大切にしてることを教えてください。
一番大切にしていることは、僕の目の前にいる人が幸せな気持ちになったり、癒されたりして欲しいということです。コーヒーは1つの手段かもしれないですね。そこにいる人たちの心の安らぎだったり、優しい気持ちになったり、なんかそういう風になってまた明日から頑張ろうってなって、そんなことが自分を通してできるのであれば、これ以上嬉しいことはないですよね。
僕の人生を振り返ってみると、大学に行ってるときには家庭教師をやって、NZに行ってもコーヒートレーナーとしてコーヒーを教えたり。日本に帰ってきてからも、バリスタトレーニングや焙煎に関するアドバイスなど、自分の経験を誰かに伝える、という機会が多いです。自分自身はどちらかというと、いろいろなことを深く掘り下げて理由を考えるタイプなので、コーヒーに関しても自分で研究することにすごく時間をかけて今の技術や知識を身につけてきたと思うんです。自分がつまづいた部分、困ったところがたくさんあったからこそ、それを他の人に教える時になるべく解決してあげられるようにしたいと思っています。その過程で人と繋がりながら今に至ってるんです。だから、これからもそんな感じで生きていくのかなって思っています。
—これからコーヒーの世界での実現したいことや目標はありますか?
約1年、コヤナギコーヒーニッポンという焙煎所を続けてきて、お客さんのコーヒーの概念をひっくり返すような瞬間、コーヒーの新しい扉が開く瞬間にたくさん立ち会うことができました。そんな瞬間をもっともっと見たいですし、それによって広がる輪を大切にしていきたいと思います。
すでに僕のコーヒーがないと困る人もいらっしゃるので(笑)、自分自身が健康で、エネルギッシュな状態で、この焙煎所をちゃんと続けてたくさんのお客さんを迎えたいと思っています。
—最後に、小柳さんにとって美しいとはなんですか?
難しいですね。そんなこと考えたことないです。でも、すべては調和とハーモニーだよなって思います。コーヒーの味のことで言えば、酸味や苦味が際立つのがいやだから、ちゃんとバランスをとる。それから、自然は美しいですよね。NZ で自然の素晴らしさに気づきました。樹齢2000年とか3000年とかの木が普通にあるんですよ。今も花とか、木とか、空、星、月、、、よく歩きながら見上げています。
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とにかく朗らかで元気。一緒にいると、こちらまで笑顔になってしまうほどパワフルな小柳さんは、今後日本を拠点に、焙煎士としての仕事のほか、店舗のコンサルティングやコーチ、ゲストバリスタなど多岐に渡って活躍されること間違いなしです。
そこで、カフェパトリシアでは、来る9月23日(祝日)に小柳さんをゲストバリスタとしてお呼びし、ニュージーランド時代にカフェで人気だったドリンクの数々やラテアートを提供していただけることになりました!
木曜日は定休日ですが、祝日であるこの日は特別に通常営業いたします。
普段はお店に立たず、自身の焙煎所で豆を販売しているだけなので、本格的なラテアートを間近で拝見できるとても貴重な機会です。お時間ある方はぜひ、ニュージーランドスタイルのエスプレッソを体験してください!
そして、いつでもコーヒーの疑問に答えてくださる小柳さんに、なんでもどしどし質問してください!
プロフィール
小柳貴人 Takahito KOYANAGI
1981年埼玉県東松山市出身。大学卒業後、IT企業に就職するが、30歳でコーヒーとバリスタ職に興味がわき、退職、2012年に単身でニュージーランドに渡航。
8年間コーヒー漬けの毎日を送ったのち、2020年に帰国。同年10月10日に実家に併設する仕事場を改装したスペシャルティコーヒー専門の焙煎所「コヤナギコーヒーニッポン」を立ち上げる。
コーヒーの焙煎だけでなく、バリスタトレーニングやコーヒーメニュー開発、カフェプロデュースなども幅広く手掛ける。
2016年ニュージーランドカップテイスターズチャンピオンシップ優勝。
【ゲストバリスタ情報 】
小柳貴人(コヤナギコーヒーニッポン代表) 会場:カフェパトリシア川越市脇田本町29−1−101
日時:9月23日(木・祝日)
時間:11:00-17:00
カフェパトリシア公式インスタグラム https://www.instagram.com/cafepatricia_/
アクセス: 東武東上線川越駅より徒歩4分。西武新宿線本川越駅より徒歩10分
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