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辛いニート時代を経て、コーヒーのチャンピオンに輝いた稀有な焙煎士 畠山大輝インタビュー後編「コーヒーの上達に絶対必要なのは、味覚のトレーニング」Interview: Daiki HATAKEYAMA vol.2 , Bespoke Coffee Roasters
JBrC(ジャパンブリュワーズカップ2019)と JHDC(ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ2019)で優勝し、コーヒーの競技会において史上初の2冠を達成した、「Bespoke Coffee Roasters(ビスポークコーヒーロースターズ)」焙煎士 畠山大輝さんインタビューの後編です。
前編は、大会で優勝するまでのことを中心に、ご自身のコーヒーとの向き合い方をお聞きしましたが、後編は、コーヒーに出会うまでの半生や、コーヒーの上達にとって欠かせないトレーニングについて、また、畠山さんにとっての「美しい」とは?を伺いました。
—コーヒーの道に入ったきっかけは?
両親がもともとコーヒー好きだったんです。 当時僕はニートでほぼ家にいたので、親に頼まれて実家のある埼玉・大宮の常盤珈琲焙煎所という自家焙煎のコーヒー屋さんに豆を買いに行き始めました。そこで徐々に興味を持って、ちゃんと学んでみようとハンドドリップの講座に申し込んだのがハマったきっかけです。
—ところで、ニートだったんですか?
はい。それまで人材派遣会社で営業管理職をしていたのですが、凄く波のある仕事で、月間400時間以上働くような超ブラックな生活をしていました。 こんな働き方でお金貯めても全然いい人生じゃないし、もう働きたくないなぁってずっと思っていたんです。でも辞めたところですぐにやることがないから、家から出なくなって気づいたらニートになりました。
—それは大変でしたね。コーヒーに出会う前、同じようにハマったものはありましたか?
実は最初は、靴磨き職人になろうと思っていました。自由大学の講座を受けてから磨き始めたんですけど、自分の靴はすぐ磨けちゃうので、他の人の靴を磨きたくなる。それで、大宮駅とか代々木公園とかに行って、“ワンコインで磨きます”って看板立てて、コーヒー屋さんでバイトしながら路上で靴磨きしてました。お客さんが喜ぶうえ、お金もいただけるのが魅力でしたね。
—それって、チャンピオンになるのと同じくらいレアですね。
靴磨きも凄く楽しかったんですけど、自分の欲求のまま追求できる“美味しい”に関わることほうが、結局自分に合ってたんですね。 それに、 高級な靴って手が届かないけど、最高峰のコーヒーは比較的手が届いたんで、もっともっと知りたいって追求し続けることができたんです。
—ところで、コーヒーショップを持たないのは何か理由があるんですか?
潰れないコーヒー屋さんを作る自信を持てなかったんです。お店を出して、資金のある数年間は続けられても、そこを過ぎたらやめてしまう人が多いだろうなって思ってました。とにかくコーヒーが好きだったので、自分がコーヒーの世界から消えてしまうことだけは避けたかった。それで、まずは自分に力をつけようと、コーヒーを育てるつもりで他の仕事をやっていました。
—全く別の仕事しながらコーヒーのことをやるって、普段の一日はどういうスケジュールなんですか?
朝コーヒー淹れて仕事行って、帰ってきたらまた自分のコーヒーに向き合うって感じ。帰宅してからテレビを見たり、趣味に費やしたりする時間が、僕にとってはコーヒーの時間です。
—ところで畠山さんは、味覚の正確性とスピードを競うカップテイスターズの大会でも常に上位ですが、味覚についての考え方もお聞きしたいです。
僕は味覚には2種類あると思っていて、潜在的な能力としての味覚と、トレーニングして身につける味覚。潜在的な味覚は、もう変えられないから仕方ない。でも後者は日々トレーニングしていけると思っています。
—どのようなトレーニングをします?
まず一つは、毎日食べたり飲んだりする瞬間に、ちゃんと集中して味わうってことです。化学調味料が入っていると、集中しなくても美味しく感じちゃうんで、僕は普段からできるだけ化学調味料は摂取しないです。その代わり、食材が合わさることでの味覚体験を増やすようにしています。あとはもちろんコーヒーのトレーニングです。コーヒーを味わう経験をたくさんする。そして、適正な味覚の評価ができるようにカリブレーション(世界のスタンダードと擦り合わせること)をしていくことですね。
—コーヒーのレベルを上げるには、食全般に対する味覚がとても大切なんですね。
絶対ですね。実際一番重要なのは味覚。これらのトレーニングを続けていくと、自分がちゃんと美味しいコーヒーを1人で出せるようになると思います。僕は自分の味覚をトレーニングして引き上げていくのも競技会に出る目的なんです。
—元々ご自身の味覚の潜在能力も高いと思いますか?
それが、コーヒー業界に味覚のトレーニングをしてる人が圧倒的に少ないんでわからないんですよね。だから、トレーニングの効果として味がわかるようになってるのか、潜在的なものなのかはよくわかってないです。でも、昔から家のお醤油やお米が変わるタイミングですぐに気付いていたみたいなので、潜在的なものも少しはあるのかな。
—今回、フリーランスとして2つの大きな大会で優勝できたことは、多くの人に凄く勇気を与えたと思うんですけど、これから競技会を目指す人にアドバイスをするなら?
コーヒーの味がわかる人と一緒に、テイスティングする機会を増やしたほうがいいとは思います。組織の中で味がわかるって言われている人たちでも、それがズレてるケースもある。競技会で実績出してる人や、審査してる人と一緒に話し合ったり、トレーニングしたりするのが結局は近道です。同じコーヒーを味わって、「これはこういう味があるよね」とか、「こういう味って感じる?」って探っていくと少しずつ感じるようになってくる。時間がかかることですが、それを続けることによってセンサーの精度を高めるしかないと思っています。
—最後に、畠山さんにとって「美しい」と思うことを教えてください。
難しいですね。でも、敢えて挙げるとするなら、僕がイメージしてる美味しいコーヒーを上回るコーヒーに出会えた時かもしれません。理論的にもスコアの項目的にも申し分ない、想定範囲の理想的なコーヒーには出会うけれど、それだけでは何も感動がないんですよ。でも頭で考える範疇を超えてくるコーヒーが存在するんじゃないかなって思ってます。だから、美しいとは、想像を超えてくるもの、ってことじゃないかと思います。
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様々な人生経験を糧に、コーヒーの世界へ全力投球した畠山さん。味覚をブラッシュアップすることは、コーヒーのプロでなくとも必要な気がします。いつの日か、美しいと思えるコーヒーに出会った時のお話も是非伺ってみたいと思いました。
また、畠山さんと一緒に味覚のトレーニングができる講座を継続的に作って、少しでも皆様の毎日のコーヒーが美味しくなるお手伝いができればと思い、8月より「川越コーヒー大学」というワークショップを開講しています。ご興味あるかたは是非気軽に参加してみてくださいね。
Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka
撮影協力:WOODBERRY COFFEE ROASTERS SHIBUYA
プロフィール
畠山大輝 Daiki HATAKEYAMA
埼玉県春日部市出身。Bespoke Coffee Roasters焙煎士。人材派遣会社で過酷な労働を経験したのちニートに。
ある日、親に頼まれたコーヒー豆を買いに訪れたコーヒーショップでコーヒーに興味を持ち、ハンドドリップ教室を受けたことがきっかけでコーヒーの世界へのめり込む。
2017年ジャパンブリュワーズカップ3位、ジャパンハンドドリップ2位に。翌年の予選落ちを経て、2019年は同競技会で優勝し、史上初の2冠に輝いた。趣味は靴磨き。
【イベント情報 】
第2回・第3回川越コーヒー大学 味覚レベルアップ講座・優勝コーヒー振る舞い・スーパーハンドドリップ講座などhttps://www.instagram.com/kawagoecoffee/
会場:ウェスタ川越
開催時間:第2回10月27日(日)・第3回11月10日(日)
コーヒーと日常 会場:深谷城址公園
開催時間:11月2日(土)
ロータス昼庭マルシェ at 高応寺 会場:高応寺
開催時間:11月4日(祝)
川越コーヒーフェスティバル 会場:蓮馨寺
https://kawagoecoffee.com/
開催時間:11月30日(土)・12月1日(日)
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