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アジア人初のワールドバリスタチャンピオン、井崎英典インタビュー。前編「自分が最もユニークである」ってことを、胸を張って言えるようになるまでが大変だった。Interview: Hidenori IZAKI vol.1, World Barista Champion, CEO of QAHWA.
幸せな日常を彩ってくれるのは、一杯のコーヒーとワクワクする気持ち。コーヒーカルチャーに新しい風を吹かせる人にお会いするインタビュー第6回目は、コーヒーコンサルタントの井崎英典さん。井崎さんは、アジア人初のワールド・バリスタ・チャンピオンに輝き一躍脚光を浴びて以来、現在は日本マクドナルドのコーヒーメニューの監修や、中国で4500店舗を展開して急成長を遂げるコーヒーチェーン店「ラッキンコーヒー」のチーフコーヒーコンサルタントを務めるなど、世界を股にかけて活躍しています。
井崎さんがコーヒーの世界に入ったのは、高校中退後に「ハニー珈琲」を営むお父様の元でアルバイトを始めた16歳の頃。当時飲んだエチオピア産のコーヒーの味わいに驚いたことをきっかけにカッピング(コーヒーの風味や味わいを評価する国際的な方法) に興味を持ち、次第に深くコーヒーにのめり込んでいきました。
その後、大検を取得し、法政大学国際文化学部に入学後は、平日学校に通いながら、週末は長野のスペシャルティコーヒー専門店「丸山珈琲」で修行し、丸山健太郎社長のもとでバリスタとしての経験を培います。そして2012年に史上最年少にてジャパン・バリスタ・チャンピオンシップにて優勝、2013年も優勝して2連覇を成し遂げ、2014年にイタリア・リミアで開催されたワールドバリスタチャンピオンシップで世界チャンピオンに輝いたのです。
インタビュー前編は、井崎さんがどのように世界チャンピオンという偉業を成し得るに至ったのかを中心に。1年目は13位と奮わなかった(当時のルールでは12位までが準決勝に進出)のに、翌年見事優勝を果たし、世界の頂点に立った背景にはどんな変化があったのでしょうか。これから世界で活躍したい人、またバリスタに興味がある若者へのアドバイスもいただきました。
—学生時代に丸山珈琲で働いていた頃を振り返ると、当時はいかがでしたか?
やっぱり上手くいかないことが多かったですね。かなり順調な方だとは思うし、自分の理想が高すぎたんだと思いますけど、当時自分が思い描いているキャリアは築けてなかった。自分が思いもよらないところでたくさん怒られていました。
—丸山社長から得たものってなんですか?
社長に一番教えてもらったのは、国際人としてのあり方と礼儀礼節ですね。僕が知る限り、丸山社長は世界で一番成功しているカッパー(カッピングで豆を評価するプロのこと)だと思うんですよ。その社長が、世界で最も必要なことは礼儀だとおっしゃる。国際人っていうのは、礼儀礼節を持って、相手に敬意を払って、本当の意味で人間と人間の信頼関係をどこまで作れるかですよね。そういうことをすごく学んだし、 僕も独立して海外で仕事をさせてもらうようになりましたが、いい意味での日本人らしさは常に意識しています。
―2009年に丸山珈琲に入ってから世界で優勝するまで数年間かかりましたが、優勝までの道のりで、一番大変だった事は?
自分らしさとは何かを知ること。要は、誰かにならないってことだと思います。最近の国内大会を見ていても、世界で誰かがすでにやっていることを真似しているだけで、個性を発揮しきれていない人が多いように感じます。無意識のうちに、潜在意識でなりたい人になろうとしてるんですよ。僕自身も、「自分が最もユニークである」っていうことを胸を張って言えるまでが大変だったかな。
―どうやってそこを乗り越えたんですか?
2013年、初めて世界大会に出場した時に思いました。12位以内が準決勝に行ける中、僕は12位と同点で負けて13位になって準決勝にも進めなかったんですね。その時のトレーニングの過程というのは、全部周りの人から言われたことに対して、「そうですね、そうします」って聞いて、自分の意見を押し殺しながら「これでいいのかな」って思いながらやっていたんですけど、そのやり方が通用しなかったと痛感したんです。強烈な体験でした。
―13年にそういう経験をして成績が出なくて、14年に優勝するために変えたことってどんなことですか?
「なぜ自分が大会に出たいのか」を徹底的に考え続けました。そして、自分の大会を通してのビジョンや、なぜ自分が世界チャンピオンになる必要があるのか、自分がユニークであるためにはどうするべきかを考えました。
—自分をもっと深く掘り下げたのですね。
これは日本人的には結構難しい考え方かもしれません。でも、結局全ての責任は自分にあるのだから、いろんなことで誰に何を言われようと自分の好きなようにやればいい。自己中心的って思われてしまうけど、僕は違うと思ってるんです。そうして、自分らしさとは何かを考え抜いたことは、今の事業にも活きてると思います。クライアントワークでも必要な、「お客様らしさとは何か」っていう、本質的な部分を見る能力をその時に身につけたんだと思っています。
―当時井崎さんの見つけた「自分らしさ」とは、具体的にどういうことでしたか?
大会におけることですけど、一例を言うと、“スペシャルティコーヒーのアンバサダーになる必要がある”、つまり、自分が業界を代表して喋るっていう考え方ですね。もう一つが、“なぜを明確にしろ”。 他にも、“個人的なパースペクティブ(考え方、見通し)が一番重要である”、“自分がこのコーヒーを通して一体何を思ったのか”、“主語が私である必要がある”、“比較に関してはシカトしろ”、“人と比べられてもシカトしろ”とか、色々ノートにメモしていました。
―でも大会って、人と競って優勝があるわけですし、勝つための戦略はないんですか?
2013年まではそう考えていました。でもノートに、“比較に関してはシカトしろ”と書いてある通り、僕がやりたいことをやればいいし、それが業界にとって必要なことであれば必ず響くはずだって考えるようになったんです。自分をとにかく客観的に分析して俯瞰して、「自分は何が強いのか」、「自分は一体何をやりたいのか」を考えました。
—当時の井崎さんの強みはなんでしたか?
アジア人で英語が喋れて、16歳からずっとスペシャルティ一コーヒーだけでやってきているということです。僕はアジア人としての勝手な自負があったんで、 アジアのコーヒー市場がこんなに盛り上がってきているんだから、ここで僕が優勝できたら、次の世代にも、アジアの発展にも寄与できると思い、アジア人初の世界チャンピオンになることに意義を見出しました。
—弱みも考えました?
はい、同時に考えました。当時はまだアジア人が認識されていなかったので、アジア人であることは強みでもある反面、弱みでもあったんです。その上でどうやって自分の価値を世界に伝えていけるかを俯瞰して考えられるようになったんだと思います。
―では、今からコーヒー業界を目指す若者にアドバイスをお願いします。
なぜバリスタになりたいのかを考えて欲しいです。ただコーヒーを作っていきたいだけだったら、将来的に君より全自動マシーンの方が美味しいコーヒーを淹れられるからごめんねっていう話なんですよ。僕だったらいらない、そのバリスタは。コーヒーを淹れる技術云々ではなく、コーヒーというレンズを通して見る世界がどうあって欲しいかというところを一回考えてみるといいのかなって思います。つまり、日本の教育に圧倒的に欠けている「なぜ」を考えることですね。
―コーヒーの競技会を目指す人にもアドバイスをお願いします。
それも全く一緒だと思いますが、なぜ大会に出るのかを考えてください。 出たい理由がない、要するにビジョンがない人って輝かないじゃないですか。自分がなぜ世界チャンピオンになりたいかを考えて欲しいです。それから、東南アジアの競技者達が人生を変えるために大会に挑んでくる様子を見ていると、日本人はもっとハングリー精神が必要だと思います。彼らのエネルギーは本当に凄いですから。
―最後に、自分の人生に最も影響を与えた人との出会いを教えてください。
2015年のワールド・バリスタ・チャンピオン、ササ・セスティックとの出会いは大きかったかな。彼が今の僕を作ってくれたと思う。僕がササからコーチを頼まれて、翌年彼は世界チャンピオンになったんですが、それがなぜ重要な出来事かと言うと、 僕の強みは、自分のベストを常に訴求していくことではなく、誰かのベストを引き出すことだと、彼が優勝をして再認識させてくれたからです。人でも組織でも会社でも、チームでも製品でも、何かのベストを引き出すということにかけて僕がユニークな才能を持っているということを再確認できました。今もササは、「ヒデの最も優れた能力は、何かのベストを引き出すことだ」って常にリマインドしてくれますね。
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当時の苦労を明るくさらっと話す井崎さんを見ながら、自信に満ち、キラキラと輝くまでの道のりの長さと奥深さをひしひしと感じました。自分を客観視し、俯瞰してみることが、今のビジネスにも役立っているというお話も印象的でした。後編は、最近出版された著書や昨年立ち上げた会社についてお聞きしています。お楽しみに。
プロフィール
井崎英典 Hidenori IZAKI
1990年生まれ。福岡県出身。コーヒーコンサルタント
高校中退後、父が経営するコーヒー屋を手伝いながらバリスタに。
法政大学国際文化学部への入学を機に、(株)丸山珈琲に入社。
2012年に史上最年少にてジャパンバリスタチャンピオンシップにて優勝し、2連覇を成し遂げた後、2014年のワールドバリスタチャンピオンシップにてアジア人初の世界チャンピオンとなる。
現在はコンサルタントとしてグローバルに活動を続け、年間200日以上を海外で過ごしつつ、コーヒーエヴァンジェリストとして啓発活動を行なっている。
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