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焙煎士特集 vol.2 伊藤雅幸インタビュー “コーヒーは究極のサブ。邪魔をせず、そっと寄り添ってくれる深煎りが美味しいと思う” Interview:Masayuki Ito, roaster and owner of Hands Coffee

福井駅から徒歩数分の繁華街にあるコーヒー専門店「Hands Coffee(ハンズコーヒー)」。ドアを開けると、ステッカーで埋め尽くされた1キロの焙煎機と真っ赤なベルベット生地のチェアが真っ先に目に飛び込んできます。

薄暗い照明の店内、 珍しいレコードジャケットや本がディスプレイされ、大きめの2つの水槽の中には亀と魚。「自家焙煎コーヒー専門店」のイメージとはちょっとかけ離れた世界にふと足を踏み入れた気分に。

そんな空間で、ゆっくりゆっくりネルドリップの味わい深い一杯を淹れてくださるのが、店主の伊藤雅幸さんです。

 

学生の頃は大人が全く魅力的に見えず、ちょっと斜に構えて世間をみていたという伊藤さんは、当時の自分を「メンタルが弱いくせに強がりで、病んでいた」と振り返ります。そんな伊藤さんを変えたのは、友人に連れて行ったもらった個人経営のカフェでした。

自由な空間とマスターの雰囲気と、年齢にかかわらずお客さんが皆フラットに接してくれる環境に触れ、伊藤さんの価値観も大きく変化。「いつかはこんなカフェをやってみたい」と思うようになり、やがてそのカフェで働くことに。

それからコーヒーの勉強を本格的に始めると、奥深さにどんどん魅了されていきます。その後、幼い頃からの憧れだったフランスへ渡り、異国のコーヒー文化も体験。帰国後は足場鳶の仕事などをして開店資金を貯めて、ついに半年後の2016年春、福井市に念願のお店Hands Coffeeを構えました。

 

今回のスピンオフ企画では、伊藤さんに特別に川越ブレンドを焙煎していただきます。焙煎のことや美味しいコーヒーについて、また過去に参加していただいた川越コーヒーフェスティバルの思い出などを語っていただきました。

 

—このお店は、どういうスタイルのお店といったらいいのですか?

基本はお客さんに合わせるスタイルではないです。うちに合う人だけがきてくれたらいいかな。お酒もあるけど、初めてきた人にはあのボトルはディスプレイなんですって言って飲ませないときがあります。

 

—2016年に、24歳の若さでお店をオープンされましたが当時と今は変わりましたか?

全然変わりました。うち今5年目ですが、最初の1-2年は、コーヒー屋と言えるものではなくて飲み屋に近かった。昼間から、ややこしい親父たちがきて、焼酎飲んで花札やってました。コーヒー焼くのも週1回、2-3週間焼かないときもあったし。振り返ると、当時はコーヒー屋なんて言えないくらい、つたない知識とスキルだったなって思います。それが 25-26歳の頃です。このままでは自分がやりたい形にはならないし、お店もどんどんださくなっていく。でも月々の固定費はかかるので、お客さんと自分の求めているもののギャップですごく悩んでいました。

—そこからどう変わっていったのですか?

決定的だったのは、光珈琲の小澤知佳さんに会ったことです。仕事で福井に来た時に、お客さんとしてよく店に寄ってくれていたんです。純粋にコーヒー好きで、気さくでネクタイ締めてない感じの知佳さんに出逢ったとき、酒場みたいな店だったうちを改めて見て、「これはだめでしょ」って思うようになりました。

それからは、今まで相手にしていたお客さんから距離を取るようにしました。その人達が来なくなったので、売り上げはガクっと下がりましたけど、なんとか持ちこたえて。それと同じ時期に、知佳さんから川越コーヒーフェスティバルの話を聞いて出させてもらったんです。川越が初めての県外のイベントでした。

—そうだったんですね。そこで県外のロースターさんとの出逢いがあったんですね。

そうです。ごうちゃん(G☆P Coffee Roastersの実豪介さん)やカズさん(Life Size Cribeの吉田一毅さん)、その後、同じ年のるいくん(周波数の小原瑠偉さん)とか、カクヤくん(Kakuya Coffee Standの蘆田格也さん)に出逢ったことで、彼らからはめちゃくちゃ刺激をもらってます。僕が勝手にライバル視してる。あの子らにダサい姿はみせんようにしようと思っています。それからは、大阪の井尻さん(井尻珈琲焙煎所の井尻健一郎さん)も繋がりました。少しでも近づきたくて、お店にもちょこちょこ行かせてもらってます。

—いいですね。それが頑張る原動力になってるんですね。

川越に出てからは、自分のコーヒーのことも少し見直そうと思って、金沢のサニーベルコーヒーさんにラテアートの講習にいくようになって、そこからラテのことはカズさんに聞いたり、カズさんやごうちゃんと焙煎の話したりしています。彼らはみんな、自由で楽しんでやってる感じがするんですよ。僕も今、お店オープンして5年経ちますが、どんどん面白くなっているなと思います。

—なぜ深煎りなんですか?

単純に好きで美味いと思います。深煎りってちょっと自分に寄り添ってくれる印象がある。僕はメンタル弱いし、悩む時めちゃくちゃあるんですけど、そういうときに飲みたくなるのは深煎りですね。それに、深煎りはエロいです。

—自分の深煎りが他の人と違うと思うことはどこですか?

抽出は 自分の哲学みたいなものがある程度出来上がっているんですけど、正直、焙煎て自信ないんですよ、ずっと模索中です。常に焙煎方法も配合の仕方も変えてきたし、失敗もよくしていたし。今まで誰よりもトライアンドエラーを繰り返してると思います。でも、川越出させてもらってからは自分のスキルが全部上がったし、今は厚みが出てきた感じがします。それは売り上げにも表れてますね。あとは、カフェインレスを焙煎するのがすごく苦手だったんですけど、最近は飲んでみてくださいって言えるようになりました。

 

—伊藤さんのカフェインレス、すごく美味しいですよね。なかなか美味しいカフェインレスってないです。

豆は以前使っていたコロンビアの農園だったので美味しくないわけがない。 じゃあなんでカフェインレスになったとたんに美味しくなくなるのか、っておふとん入った時に考えたんですよ。

いつも2ハゼ後半くらいまで焼いてたけど、なんか臭いんです。それで原因を考えたんですけど、カフェインレスって、僕の豆は、液体CO2(二酸化炭素)抽出法っていうやり方で、豆に水分を含ませて膨張させることでカフェインを抜いてるから、最初から豆がたくさん水分を含んでるんですね。だったらもっと焼いて水分をなくさないといけないと思ったんです。それからは、仕上がりは黒豆みたいで、つやっつやの状態になる2ハゼの終わりくらいまで焙煎してます。僕はそれを25gの130ccでネルで抽出しています。

—甘みはどうしてあんなに綺麗にでるのでしょう?

甘みねぇ、、、なんでしょう。心がけてるのは、しっかり中までちゃんと焼いて、でも焼き過ぎないこと。浅煎りって多いですけど、ちゃんと焼けてないのも結構あるし、逆に深煎りは深煎りで焦げてるなって思うことも多い。つまり、僕の正解だと思う範囲で正しく焼こうって思っています。

—抽出はなぜネルドリップですか?

僕がかっこいいと思う人はみんな深煎りでネルなんです。大坊さんも、井尻さんも、蕪木さんも、 豪ちゃんも、るいくんも。

—なぜだと思います?

美味いからだと思う。一度「ネルって美味くないですか?」って福井のコーヒー屋に確認したら、「美味いけどめんどくさいじゃん」って言われて。「めんどくさいだけかよ、だったらやれよ。美味しいほうがいいじゃん」って思ってからは、ネル一本にしました。

ただ、照明暗いカウンターでこんな刺青入ってる僕がネル淹れてるので、入って来ても出ていっちゃう人も増えました。それにネルは時間もかかって待たせちゃうから。でもそれもありかなって。

—伊藤さんの考える美味しいコーヒーとはどういうものですか?

邪魔しないコーヒーが美味しいコーヒー。たとえば2人で話してても、僕が思う美味しいコーヒーってその会話を邪魔しない。1人で本読んでいても、読書の邪魔をしないし、寄り添ってくれるんです。蕪木さんの本を読んだ時、「コーヒーは弱者への嗜好品」ていう言葉があって、それがめちゃくちゃしっくりきて。僕の中でコーヒーって究極のサブなんです。最高の脇役。脇役が巧いと、主演を引き立てるじゃないですか。

—では伊藤さんにとって美しいとは?

常日頃心がけてることなんですけど、僕にとっての美しいとは、バランスです。お店の配置、本の置き方、ブレンド、会話、僕は全てにバランスをとりたいし、バランスが綺麗にとれたら、それが美しいと思います。

—今回お願いした川越ブレンドはどんな感じになりそうですか?

なんだろうなぁ。イメージは、思春期の初期衝動。 僕が初めて川越行かせてもらってときの、つたない初期衝動というか、まだ青くて突っ走っていた頃を経て、ちょっとだけ成長して今こんなになりました、っていうところを出したいです。 配合はようやく決まりました。豆は、インドネシア2種とインドとブラジルの4種類を使います。

群馬から毎年お店に来てくれるお客さんもいるし、豪ちゃんもカズさんもかやさんもずっと飲んでくれてるから、ちょっとだけ発表会みたいな気分で、成長をみせられたらなって思っています。

—楽しみにしています!私は、伊藤さんと川越の親和性をずっと考えているんです。

僕、刺青入ってるし、一見怖そうって言われるんですけど、本当は内面めっちゃ弱いです。 だから、自分が居やすい場所をつくりたいし、それはコーヒーの味にも影響してると思う。深煎りは落ち着くんです。ネルドリップのトロッとした感じも低温で淹れるのも心地良い。でもこういうのは、川越に行って開花したんですよ。

—なんだか嬉しいです。最後に、これから実現したいことは?

海外にもコーヒー淹れに行きたいし、とにかくいろんなところでコーヒー淹れたいです。あとは、死ぬまでに一冊だけ自叙伝を出したい。だってかっこよくないですか?

インタビューの後、 “人に寄り添う”、“コーヒーは弱者の嗜好品”、“コーヒーは常に主演を引き立てるための脇役“という言葉がとても印象に残りました。SDGsなどを掲げて、誰ひとり取り残さない世界を作るために動き始めている今の社会に、伊藤さんの作る、そばで寄り添ってくれるような深煎りブレンドの味は、多くの人の体にも心にも、心地よく沁み込んでくれるのかもしれません。

突っ走った青春を経て、少し成長した大人の味を表現した川越ブレンド。

川越をきっかけに人生が花開いた伊藤さんの焙煎。どうぞお楽しみください。

【イベント情報】

川越コーヒーデイズ(川越コーヒーフェスティバルスピンオフ)

オンライン焙煎士特集

詳細は川越コーヒーフェスティバル公式サイト

 

インタビュー& 撮影:高綱草子 Kaya Takatsuna

プロフィール

伊藤雅幸 Masayuki Ito  

福井県出身。高校卒業後、福井市のカフェに勤務しながらコーヒーの技術を学び、競技会などに出場。
その後、フランスに渡りさまざまなカフェ文化を体験し独立を決意。帰国後は足場鳶の仕事などをしながら開業資金を貯め、半年後の2016年春、24歳の若さで福井市にHands Coffeeをオープンした。
確かな技術と独特の感性で焙煎する伊藤さんのコーヒーは、全国にファンを増やし続けている。趣味は、漫画、アニメ、映画鑑賞、バトミントン、釣り、お花、美術鑑賞、珈琲屋さん巡り、飲酒、猫、音楽etc.

【店舗情報】

HANDS COFFEE (ハンズコーヒー) 住所:福井県福井市中央1-22-13
電話番号:0776-28-7108
営業時間:11:00-21:00(月、水、木、日)11:00-24:00(金、土)
定休日:火曜日
https://www.instagram.com/hands_coffee/

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