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焙煎士特集 vol.4 石井康雄インタビュー後編 「次の目標は、焙煎の世界チャンピオン。リーブスという船がずっと航海し続けるためにしていること」 roaster & owner of LEAVES COFFEE ROASTERS
石井康雄さんインタビュー後半は、焙煎のことを中心に、石井さんが美味しいと思うコーヒーや、これからのビジョンなどを伺いました。プロボクサーの時代に叶わなかった世界チャンピオンの夢を、今、コーヒーという舞台で成し遂げようとする石井さんの行動力は必読。 ワクワクするお話をたくさんお聞きしました。
—石井さんは、焙煎士としてのイメージが強いですね。
もともと職人肌なんですよ。 コーヒーは抽出から入ったんですけど、抽出が極まってくると焙煎がしたくなって、 焙煎を知れば知るほど、さらにひとつのことをとことん突き詰めるようになりました。今は、作ることに喜びや生きがいを感じています。振り返れば、プロボクサーの頃から自分は職人気質だったんだって思います。
—それでもサービスやセンスも素晴らしいのは飲食業界にいたからですか?
もちろん職人として、面白くて良いものを作っていくのはすごく大事なんだけど、お客さんの喜ぶ姿をみたり、美味しいって思ってくれたりするのを感じられる接客もすごく好きなんです。だから僕は、黙々と焙煎して抽出して、それを美味しいって思ってくれるエンドユーザーの笑顔まで欲しいと思ってます。
—焙煎で大切にしていることを教えてください。
素材の味を最大限に引き出すことです。焙煎で素材を超えることはできなくて、抽出で焙煎を超えることはできない。つまり、素材が一番大事。次にそれを調理していく焙煎が大事かなと思っています。だから良いコーヒーを手に入れることと、良いコーヒーを判断することができるセンサリーの技術はすごく大事にしています。
—生豆はどうやって選んでいるんですか?
カップした時、甘くてクリーンでフルーティである豆が最強ですね。香気成分で800種類もあるフレーバーはもちろん大事にしてはいますが、フレーバーがたっても綺麗じゃないコーヒーはあまり好きではないですね。
—焙煎の魅力は?
焙煎は嘘つかないです。正直でいられるし、裏切らない。結局うまくいかなかったら、それは自分のせいなんで。ちょっとスピリッチュアルな言い方かもしれないけど、素直になれるということかな。
—焙煎はどうコーヒーに影響すると思いますか?
もちろん技術も大事だけど、気持ちは絶対に影響すると思っています。美味しくなれと思って焙煎するのと、ただ単にやいてるのでは、絶対に最終的な味は変わるし。ただ抽出してるだけの人と、気持ち込めて抽出してる人でも全然違うと思います。
—石井さんの焙煎の強みは何だとおもいますか?
僕には先生がいないので、いろんな人のプロファイルをみても、同じように焼いてる人は誰もいないです。グラフだけ見ると、もちろん似ているところもありますが、 釜の中の環境、排気の力、回転数で及ぼす味の変化みたいなものを僕なりに一個一個細部まで検証していっているんで、とにかくオリジナリティがあると思います。フレーバーと甘さの両方を最大限に取るのは無理なので、焙煎でその中間のスポットにばちっと当てると、甘くてフルーティなコーヒーができるんです。
「リーブスってどんなコーヒー?」って聞かれたら、「甘くてフルーティでクリーンなコーヒー」っていうのを繰り返し言ってるし、そういう方向になっています。でも、まだまだもっともっと美味しくなると思っています。
—やっぱりすごく考えられてるんだなって、改めて感じました。
めっちゃ考えてますね。だから、うまくいかなかった時は、すごくショック。焙煎日と営業日をわけているのも、焙煎にしっかり集中したいからなんです。焙煎日まで営業しなきゃ生活できないならやらなきゃだめだけど、僕はそれをやってクオリティが落ちてしまったら本末転倒だと思ってます。一番は美味しいコーヒーを作ること。このクオリティを維持するためには、開けたくても週3日しか開けられないんです。
—なぜ焙煎機はプロバットですか?
焙煎したいと思ったときから、とにかく世界中のコーヒーを飲みまくったんですよ。細かい情報を入れずに、美味しいって思うところをまずは飲んでいったんです。それであとから焙煎機を調べてみたら、年代違いはあれど全部プロバットだったんです。
—へぇ!!!
その頃から僕の味の評価の基準は、濃い薄いじゃなくて、厚みがあるかだったんですけど、プロバットは味が立体的だったんですよ。歌に例えると、イントロがあって、Aメロ、Bメロ、それからサビがある、みたいな。そういう食べ物とかコーヒーを美味しいって思います。
プロバットは、そういう僕が好きな味を作れると思っています。しかも、昔の鉄の素材のほうが密度が高くて蓄熱が高いから、あえて50年代の古い釜を使っています。壊れたところや足りないものは全て新しくして、いろいろカスタマイズしたのでこれは世界で1台しかないです。
—なんか、ロマンがあっていいですね。コーヒーを仕事にする上で大変なことはありますか?
実はないんですよ。一回も仕事って思ったことがなくて。だから、なんでしょうね。すごくクサい言い方ですけど、人生そのものみたいになっちゃってます。趣味もコーヒーだし、だから今、めっちゃ最高なんですよ。
—いろんなことを経験した先にそれがあったって、最高ですね。コーヒーの世界で影響を受けた人は?
影響ともちょっと違うかもしれないけど、フグレンの小島賢治(Fuglen Tokyoのオーナーで焙煎士)の考え方や、コーヒーとの向き合い方はすごく好きかな。めちゃくちゃストイックだし、僕より前にグルテンフリーやってたし。
—東京のコーヒーカルチャーはどう捉えてます?
うーん、ちょっと不安はあるかな。全然否定してるわけではないですけど、本物もたくさん出てきてますけど、 ファッションでやってる人も多いと思っていて。おしゃれだから気軽にコーヒーややりたいっていうのはちょっと危険かなって思います。結局はそれでご飯食べて生きていかなければならないわけだから、もっと慎重になったほうがいいよって。
—社会で気になることは?
時代が変わります、本当に。個人能力がある人じゃないと生きていけない時代。どこかの企業に就職するような、雇用関係が当たり前の時代が終わると思っています。そうなると、みんなが自分にしかできないことを持つことがすごく大事になってくると思います。
—自分にしかできることが何か、見つけられない人はどうしたらいいですか?
夢が見つからない人や、何をしていいかわからない人は、夢がある人の下で一度は働いてみたらいいよ、ってアドバイスします。
—いいですね。ところで、石井さんにとって美しいとはなんですか?
なんでしょう、、、。笑顔ですね。人の笑顔が一番美しい。ありきたりかもしれないけど、笑顔でいれば何でも解決できると思っています。
—これからのビジョンを教えていただけますか?
僕は焙煎の大会(WCRC ・ワールドコーヒーロースティングチャンピオンシップ)で世界を獲りたいです。リーブスコーヒーの石井っていうよりは、リーブスコーヒーを世界一の焙煎所にしたい。リーブスコーヒーを一隻の船だと考えると、僕が1代目の船長で、その後2代目、3代目ってずっと航海し続けていくことを目指しています。そのためには、チャンピオンの協力だけでなく、自分がチャンピオンにならないとって思ってます。僕が引退したあとも、リーブス船がずっと沈まないように。
—これは、もうすぐチャンピオンになりますね。
年明けに、このプロバットの隣にギーセン(オランダ製GIESEN焙煎機。焙煎の世界大会で使用されているのと同じもの)が来ます。こんな時期に買っちゃったんですけど、人生一回だしいいかなって。
これから、世界のコンペティター(競技者)の豆もどんどんやきたいんですよ。僕のところに大会の豆をやいて欲しいって世界中から依頼がくるようになったら面白いなって思っています。「コンペティターの豆を焙煎しているのはリーブスさん」て言われるようなブランドにもなっていきたい。焙煎はそのくらいまで極めたいですね。
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石井さんのお話を伺っていて、この焙煎士特集は、もしかしたら100年後に日本を代表するコーヒー専門店の老舗となっている、その初代の焙煎士で創業者のコーヒーを比べているのかもしれないと、ふと思いました。そう考えたら、さらに壮大でロマンがありますね。
焙煎士特集で3人の豆を味わったあとは、ぜひそれぞれのロースタリーへ行ってみてください。それぞれの美学や哲学が詰まった空間で、素敵な出会いや体験をしてくださいね。
インタビュー:高綱草子 Kaya Takatsuna
プロフィール
石井康雄 Yashuo ISHII
元プロボクサー。引退後は飲食業界で活躍した後、本格的にコーヒーの世界の扉を開いた異色のロースター。
東京・蔵前にあるロースタリーは、焙煎に集中したいとの理由から週3日しか開かない。
トップレベルのバリスタやバーテンダーとのコラボレーションも多く、常にさらなる高みを目指す。
趣味は、 1950年代にハンドメイドで作られたアメリカとフランスの眼鏡の収集
【店舗情報】
LEAVES COFFEE ROASTERS(リーブスコーヒーロースターズ) 住所:東京都墨田区本所1丁目8−8電話番号:03-5637-8718
営業時間:10:00 - 17:00
定休日:火曜日から金曜日(土・日・月のみ営業)
https://leavescoffee.jp/
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