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焙煎士特集 vol.1 山崎嘉也インタビュー “コーヒーの美味しさの決め手は、その味が本物か、偽物か。大事なのは、自分よりも相手を信じること”Interview: Yoshiya Yamazaki, roaster & owner of ETHICUS COFFEE ROASTERS

ギリシャの古語に由来する店名に、珍しいグリーンカラーにシルバー文字のロゴマーク、そして輪ゴム付きのパッケージ、、、、と、全てに異彩を放つ静岡のコーヒー専門店「ETHICUS COFFEE ROASTERS(エートスコーヒーロースターズ)」。ローカル線、静鉄静岡清水線の日吉町駅前にある、まるでラボと美術館が合体したような空間が実店舗です。お店を訪れるとなおさら、エートスが唯一無二の存在であることを感じます。

オーナーの山崎嘉也さんは、15歳の頃からパンクに熱中した元バンドマン。その根底には今もパンクロックの精神が熱く流れています。しかし大学卒業後は音楽の道へは進まず、不動産会社に就職。その後、無印良品に転職して物流に携わります。それからしばらくして友人から、「カフェを一緒にオープンしよう」との誘いを受けてその気になり、「まずはコーヒーの勉強を少ししてみよう」と思った山崎さんは、職場のそばにあったSegafredo ZANETTI Espresso(セガフレード・ザネッティ・エスプレッソ)で働き始めました。

 

すぐに辞めるつもりで入ったセガフレードでしたが、チーフバリスタからスーパーバイザーまであらゆるポジションを経験し、結局10年間勤務。コーヒー好きの方からしたら、浅め焙煎で有名なコーヒー専門店を経営する人という印象が強いかもしれませんが、実は山崎さんは、エスプレッソのノウハウを知り尽くしている深煎りのプロでもあるんです。

そこで、今回のスペシャル企画では、山崎さんが「今みなさんに飲んでほしい深煎り」を特別に焙煎してくださることになりました。

インタビューでは、山崎さんに今までのコーヒーとの関わり方をお聞きしたほか、深煎りに長年携わりながらも、どうして今の焙煎に辿り着いたのか、焙煎で大切にしていること、そして、2020年12月1日に伊豆高原にオープンすることが決まった3店舗目についても伺いました。

 

 

—山崎さんからは、なぜか前々からヤンキー魂みたいなものを感じていたのですが、パンクロックでしたか!

生き方とかバックボーンにはパンクロックの精神が流れています。ものづくりするなら、美しいものや完璧なものは求めてない。むしろ自分らしいものを作ろうと思います。元々静岡でゴリゴリのパンクバンドやっていたんですけど、好きな音楽を友達と共有できる瞬間が最高に楽しかった。今もそうですけど、 1人で何かやるよりも、誰かと一緒にやることが僕にとって大切です。

 

—しかもセガフレードに10年いたなんて、とても意外でした。

もともと人の言うことを聞くタイプじゃないので、10年いられたのは、本当に自由にやらせてもらっていたからだと思って、今では感謝しています。同じやり方をなぞったり、会社のマニュアル通りにやることがどうしてもできないタイプなので、上司は扱いづらかったと思います。でも、僕は当たり前だと思うことをやっていただけだし、数字的に結果も出てたんですよね。 それでも10年続いたということは、きっとコーヒーが好きだったんでしょうね。

 

 

—今でも思い出に残っていることはありますか?

働いている間、いろんなお店のコーヒーを飲みましたけど、美味しいコーヒーがなにかわからなくなってきた時があって、ふとイタリアに行きました。バールを180軒廻りながら、お店で使っている豆とレシピを180軒全部で聞いて、それをデータに残しました。でも本場と言われるイタリアまで行ったのに、エスプレッソが全然美味しく感じなかった。それで悶々としたまま帰国して、日本に帰ってきて飲んだエスプレッソが一番美味しかったんです。その時、「もう外国にコーヒーをわざわざ飲みに行くことはないな」と思いました。笑

 

—その日本のお店はどこだったんですか?

うちの店(当時勤務していたセガフレード)だったんです。

 

—笑!でもそれは素晴らしい発見でしたね。そこを辞めたきっかけは?

きっかけはふたつあります。帰国してうちのエスプレッソが美味しかったと気付いた時に、「これがもっと良い豆だったら、どんだけ美味しいコーヒーになるんだろう」って思ったことがひとつ。もうひとつは、清澄白河にあるアライズコーヒーの林さん(Arise Coffee Roastersの林大樹)との出会いです。当時はまだ清澄にブルーボトルコーヒーもなくて、コーヒー1杯で3時間くらい林さんと話せたんですね。そのときに、「独立した方がいいよ」って直接アドバイスをいただいて背中を押してもらいました。

—それで独立したのはいつですか?

2014年です。最初は1キロの焙煎機で自家焙煎してナチュラル系のカフェをやっていました。焙煎は今より深くて中煎りくらいかな。 このスタイルになったのは2018年です。

 

—2018年のエートスオープンをきっかけに浅めの焙煎にふりきったんですか?

そういうわけではなくて、僕、焙煎の基準にしてる豆があるんです。ドミニカのアルフレッドディアス・ワイニーナチュラルという、すごく柔らかくて焙煎も難しい豆です。その一番美味しいポイントをずっと探してる感じで。その豆に最初に出会ったのもアライズさんで、まずはその味を目指したんですが、だんだんそのポイントじゃ満足できなくなってきて。ドミニカの美味しいポイントが変化していくにつれて、周りの豆の焙煎もどんどん変わっているんですよ。

 

—じゃあ意識的に浅煎りにふりきったわけではないんですね。ドニミカの焙煎に他の豆も影響されていたとは、興味深いです。

うちのローストは、フィルターロースト、エスプレッソロースト、ダークローストと3種類あります。あくまでペーパーフィルターで適した焙煎度合を基準にしているので、実は浅煎りとか、ライトローストとか、ミディアムローストっていう言葉は僕は今まで使ったことないんですよ。周りのイメージだと思います。僕自身はフィルターに一番適した焙煎です、って言いながら、その度合いはずっと変化しています。

—つまり、山崎さんの美味しいポイントが変われば、焙煎度合いはこれからも変わり続けるということなんですね。

そうですね。周りや流行に合わせるのではなく、僕が美味しいと思える味かどうかが大切なんです。

 

—なるほど。では、生豆を仕入れる際に大事にしていることはありますか?

バイヤーを信じる、以上。一番大事なことはどうやったらまわりの人に協力してもらえるかってことだと思うんです。そのためには好かれなくちゃいけない。いろんな人に感謝の気持ちを持たない限り、何をやっても僕は絶対に成功しないと思っています。

もちろん僕自身が生産者のところに行って買うことも大事だと思いますけど、そこにプロとして長年行っているバイヤーさんを信じて買うことも大切じゃないかと。今、僕はCafé Importsっていうところの辻本さんから9割買っています。自分を信じるよりも、相手を信じる。

ー 素晴らしいお話ですね。エートスさんのコーヒーの甘みが素晴らしいという声を私のまわりで良く聞くのですが、焙煎で大切にしていることはありますか?

僕の焙煎ポイントは1つしかなくて、それは一口目がシルキーでネクターのような質感かどうか。豆によってプロファイルを変える人もいますけど、僕はしたことないです。そして温度より時間。あとは豆の持ってるものを引き出すのみ。 焙煎って、豆の水分を抜いていくドライという工程と、コーヒーのフレーバーを作っていくメイラードという工程、そして深さを決めていくデベッロップメントっていう3つの段階があるんですけど、甘さはドライで決まります。そこに、どういう時間をかけるかがすごく大事ですね。ちゃんと水抜きをしてあげれば甘い香りがしてきますよ。

 

—そういうことは、どこかで勉強したんですか?

全部独学です。データは紙でもすごく残っていますけど、10秒ごとに豆を一粒ずつだして、包丁で切って、、、とかやっていましたね。教えてもらえれば2時間で済むのに、無駄な時間だったかな(笑)。僕の場合は、努力をした記憶はなくて、今までコーヒーに没頭してきた感じです。

 

 

—山崎さんにとって美味しいコーヒーとは?

大事にしてるのは、そのコーヒーが本物か、偽物か。本物だと思うコーヒーは美味しいです。言い方を変えれば、人真似か人真似でないか、ちゃんと自分で美味しいと思って出しているか、 本人がちゃんと自信を持っていれば絶対美味しい。この辺の考え方がパンクなんでしょうね。僕はブラインドでもアライズの林さんの味を一発で当てられるんです。これが本物なんだなって思いました。味を超えた部分ですよね。 「これはエートスのコーヒーだ」って僕も思ってもらえるコーヒーを作りたいと思いました。

 

—本物のコーヒーを作れる人っていうのは、人生そのものが違う気もします。

見た目で感じるものが違いますよね。カウンティの森さん(Coffee Countyの森崇顕)やフィロコフィアの粕谷さん(Philocoffeaの粕谷哲)もそうですよね。本当に自分が美味しいと思ったものを作っていますよね。

—では、山崎さんにとって、美しいとは?

美しいとは”醜い”ですね。醜いものって美しくないですか?醜いを突き抜けた先に美しさはあると思っているので、イコールだと思います。実は僕らの仕事って醜い仕事だと思うんです。SNSにはカウンターより上の良いところしか出てないけど、その下ではいろんなことが起こっている。華やかでいるためには、泥臭い仕事をたくさんしなくちゃいけないわけで、美味しいコーヒーのためには、何度もハンドピックして、胃を壊してまでテイスティングしているんですよね。

—でも、胃を壊しながらも、まもなく3店舗目を伊豆にオープンされるそうですね。

そうなんです。でも普通にカフェをやるつもりはないので、テーブルと椅子はあえて置かないし、代わりに縁側があります。グランピングもできるし、むしろ自分で遊びに行くための店ですね。新店舗の大家さんが鹿肉の猟をしていて良い肉を仕入れられるので、メニューには鹿肉のカレーもあります。コーヒーの他に、夜はナチュールワインとクラフトビール。カウンターにはMod Barが入ります。店名は「ETHICUS theleema(エートスセレーマ)」。セレーマとは、ギリシャ語で「意志」「意図」という意味を持つ言葉です。

 

—楽しみです。ところで店名ですが、いつも読めないです。

これは自分に対してのプレッシャーです。Louis Vuittonて最初読めないですよね。でも見た瞬間にルイ・ヴィトンだってわかる。うちのロゴも文字がシルバーで絶対潰れちゃうし、グリーンも独特ですけど、たとえ読めなくても見た瞬間に、「あ、これエートスだ」ってなってくれるようにと思って。これは僕が自分に課したミッションなんです。

個性を大切にしながらも、周りの動向や流れを俯瞰する観察力やビジネスに対する千里眼もお持ちの山崎さん。何事にもバランス感覚が優れた方だとお見受けしました。12月1日にいよいよオープンする3店舗目の写真を見せていただきましたが、とっても斬新!。間違いなく今後注目されるお店です。オープンを楽しみに待ちたいと思います。

次々と新しいことを作り出す山崎さんのルーツとも言える深煎り。今回は特別にここでしか手に入らないブレンドを焙煎していただきますが、山崎さんの軸とも言えるドミニカの豆が入っています。さて、どんなブレンドになるのでしょうか!

この貴重なコーヒー、ぜひお試しください。

 

インタビュー& 撮影:高綱草子 Kaya Takatsuna

プロフィール

山崎嘉也 Yoshiya Yamazaki  

静岡県出身。学生時代はパンクロックバンドに熱中になり、大学卒業後は不動産や物流の業界で働く。
その後、セガフレード・ザネッティ・エスプレッソに就職したことを機にコーヒーの世界へ。チーフバリスタやスーパーバイザーとして10年間勤務する。
独立して2014年に静岡にナチュラル系のカフェを、2018年に現店舗「エートスコーヒーロースターズ」をオープンした。
その焙煎技術は国内外で評価が高く、海外のイベントやショーにも数多く招待される。
2020年6月に2号店「ETHICUS euphrainoo(エートスユーフライノー)」、12月1日には3号店となる「ETHICUS theleema」を伊豆高原にオープン。
趣味は、音楽を聴きながら街を歩くこと

【店舗情報】

ETHICUS COFFEE ROASTERS(エートスコーヒーロースターズ) 住所:静岡県静岡市葵区鷹匠 2-21-12
電話番号:054-204-9155
営業時間:7:00-19:00
定休日:無休
https://www.instagram.com/ethicus.jp/

2号店 ETHICUS euphrainoo(エートス エウフライノー ) 住所:420-0839 静岡県静岡市葵区鷹匠2-20-10
電話番号:054-292-5353

3号店(2020年12月1日オープン) ETHICUS Theleema(エートス セレーマ) 住所:413-0231 静岡県伊東市富戸1317-2904
電話番号:0557-52-6275

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