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焙煎士特集 vol.3 森崇顕インタビュー後編「焙煎の魅力は、責任。自分というフィルターを通して、対象をちゃんと見つめたい。」Interview: Takaaki Mori, owner & roaster of COFFEE COUNTY
森崇顕さんインタビュー後半は、焙煎のことを中心に、森さんが生きる上で大切にしていることや、好きなもの、美しいと思うもののお話を聞かせていただきました。コーヒーのお話だけでなく、ワインのことから北海道にオープンしたアイヌ博物館のことにまで及びます!
—森さんは焙煎人というイメージが強いですが、焙煎に特化したのはなぜですか?
うーん。別にテクニカルなことをしているわけじゃないですけど、買付けと繋がっているというところでしょうか。僕の主な仕事は、買付けと焙煎ですかね。買付けてきたものをどうやってうまくお客さんに伝えるかっていうところの、最大のポイントが焙煎ですよね。
—焙煎の魅力は?
うーん、なんでしょう、、、。責任。生産者に対して、お客さんに対してもそうですし。
—とても興味深いです。では焙煎は、どうコーヒーに影響すると思っていますか?
なんだろう。やっぱり、良い悪いは別として、その人のカラーが出ると思うんですよ。それがお店のカラーにもなると思うし大事かなって思います。その上で抽出を組み立てるって、僕はそういう風に考えているんで。
—そういう意味では森さんの焙煎の強みはなんだと思いますか?
選んでくる生豆もそうなんですけど、 酸が綺麗で飲みごごちが良いものが好きだし、そういうものを作りたい。それは普段食べてるものの嗜好とも一致するはずです。
—森さんは、コーヒーだけじゃなくて、ほかの食にもとても造詣が深いですね。
商売にはしてないのでちょっと違いますけど、ワインが好きで飲むし、フランスに行ったときも自分が好きな生産者を訪ねたし、 そういう意味ではコーヒーもワインも区別なく考えてます。僕のこと知っている人は、「森さんのコーヒーって、森さんが好きなワインと一緒よね」って言いますね。
結局普段好きなもの、摂取してるものと同じベクトルで、同じ視線で見てるんですよね。ナチュラルワインが好きで繋がった人も、僕のコーヒーを好んで飲んでくれてるし。自然にある酵母で作った、畑のぶどうの味が出てくるような、あんまり飾らず、できればなにも足さず作ったものが好きだし、プロセスでごちゃごちゃしてるのはあまり扱わないし好きじゃないです。自然に体にしみこんでくるようなワインが好きだし、コーヒーが好きです。
—では、美味しいコーヒーとはなんですか?
飲みごごちが良いコーヒー。綺麗な酸。あとは、余白は欲しいかな。「どやどやどや!」っていうコーヒーよりは、飲み手が入り込むスペースは用意しておきたいなと思います。
—その余白は焙煎によってつくれるんですか?
そう思っていますし、抽出でもつくれると思います。
—焙煎機はなぜプロバットを使っていますか?
単に好きですね、車みたいなものです。使い心地も、見た目もそうだし、古いものが好きだし、独立する前からいろいろ使って来たけど、プロバットは温かさがあるかな。国産車じゃなくて、クラシックカーに乗るような。乗りたいものに乗るって感じですかね。
—生豆を選ぶ時、大切にしていることは?
難しいです。もちろん点数をつけるわけですけど、それだけじゃない気がします。客観的な点数よりも自分は美味しいって感じたなとか、逆にお店のバリエーションを考えたときに、点数は高いけどちょっと違うなぁっていうのもありますし。点数は伸びなくても、うちのお客さんは好きだろうなぁとかもあります。あとは、実際日本に持ってきたときに、経時変化で印象が大きく変わるものもあるので、それを踏まえて選びます。
—コーヒーの世界で一番影響を受けた人がいれば教えてください。
あんまりいないけど、挙げるとすれば、基本の心構えを叩き込んでくれた札幌のマスターかな。それから、エチオピアを訪れるきっかけを与えてくれたのは、森光さん(珈琲美美の森光宗男。2016年に他界)。森光さんはモカが好きでエチオピアやイエメンを旅していて、亡くなる前に、僕と、後藤さんと闌館の田原さん(珈琲蘭館の田原照淳)の3人をエチオピアに連れて行ってくれたんですよね。それが大きかったかな。亡くなるちょっと前でしたし、はっきりとはおっしゃらないですけど、福岡の若手にバトンを渡したいみたいな気持ちがあったのかなって。それをきっかけに関係性をつくらせてもらったので、エチオピアは隔年で行ってます。
—素敵なお話ですね。ところで、久留米のコーヒー文化はどう捉えてますか?
福岡はいろんな有名人がいますけど、久留米でスペシャルティコーヒーといえばあだち珈琲さんと当店くらいで、福岡の都心部のお店と違って、生活圏なので豆が断然売れます。それに、久留米絣とか藍染などの文化があるし、久留米は日本有数の酒蔵の数を誇ります。ものづくりが合っている土地なのかな。
—これからコーヒーの仕事を続けたい人にアドバイスをお願いします。
難しいですね。コーヒーを愛してあげて、コーヒーのことを思っていればちゃんと返って来ると思うんです。目先のことじゃなくて、おのずとアイディアが浮かんで来たりとか、ロースター目線でいうとそうかな。売れる計算ばっかりするんじゃなくて、自分が美味しいって思うコーヒーをちゃんと伝えるっていうか、そしたら見てる人は見てるし、伝わるかなって思います。
—社会で気になることや心配してることは?
そうですねぇ。コーヒーの現場を見に行ったりするので、自分にできることはちょっとしかないと思うんですけど、本当に自分ができる範囲でやれることをやるってことですね。大きな問題をあまり考えられないので、生産現場から「困ってるんよ」って言われればなんとかしてあげたいし、それしかできない。それが次に繋がっていくと思っています。大きく考えると打ちのめされるし、もうそれは縁ということなのかなとも思います。
—森さんの人生でもっとも大切なことは?
対象をちゃんと見つめたいですね。豆にしても、なんでこれがこうなって、こういう味になるのか。どんな畑なんだろう、どんな品種でどんな作りをしてるんだろうって、そこを知りたいから産地に行くし、作っている人に会いにいくわけだし。僕は食べたり飲んだりすることが好きなんで、そこから対象を見つめる。そこから焙煎につながっていくんで、自分というフィルターを通して何かを出すときには、その「見つめる」っていう行為が大事なのかなって思います。その代表的なのがコーヒーなのかなって。
—人生とコーヒーはどういう関係ですか?
自分にとって、別にコーヒーじゃなくてもいい気がするんです。でもやってる以上は一生懸命やろうと思っています。じゃあコーヒーが何よりも好きかって聞かれたら、そんなに自信がないんですよ。無いと生きていけないかって言われるとそうでも無いと思うし。でもコーヒーを通して、見つめて知っていくっていう行為は凄く好きで、そこは愛してるんですけど。でもこれがワインでもそうなっていたかもしれない。だからそこは、コーヒーに動かされている感はありますね。
—では、森さんにとって、美しいとはなんですか?
時間があるもの。古いものもけっこう好きだし、モノの表面に時間の形跡がみえるものも、クラシックなものが新しく作り続けられているものも好きです。いろんな人の考えや、時間が感じられるもの。コーヒーもそうだし、ワインもそうだし、その背景が感じられるものに美しさを感じます。
—そういう意味で最近美しいと思ったものはありますか?
アイヌ文化かな。今、アイヌ文化に興味を持っていて、ちょっと前に休みをとって北海道に行っていたんです。札幌から車で1時間くらいのところに、「ウポポイ」という国立アイヌ民族博物館がオープンしたので、博物館のある白老町や、もともとアイヌの大きな集落があった二風谷村を訪ねました。ちょっとまた違うんですけど、 宗教的な意味を超えて、広い意味でずっと込められてきた願いというか、祈りというか、人が受け継いできた時間みたいなものを感じたんです。
—時間をかけて受け継がれている、人の営みの美しさですか。
アイヌの作ったものが素晴らしいのは、プリミティブな暮らしから生まれたものだからだと思うんです。その背景を探るとそこにあるのは、自然と一体の思想っていうか、 熊や空もそうだし 彼らは自然を畏れて尊敬している。つまり、疑わずに信じてきたわけですよね。そういうあり方は綺麗かなって。
僕自身は宗教はなんにもないんですけど、何かを信じている人が作るものに興味があるんですよ。たとえば教会も、弾圧があって厳しい生活しながらも、少しづつお金をためて教会をつくるってどういうことなの?って。自分が信じるものがないから逆に興味があるのかもしれないです。
信じる心、祈り、時間、、、、、
そこには必ず人間がいるだろうし、単純に朽ちていったものもいいんですよね。
—これから実現したいこと、まだ叶っていないことはありますか?
悩み中ですねぇ。ひとつは自分で農園をやりたいと思っています。自社農園なら実験的なこともできるし、それをお客さんに届けられるのはいいなと思っています。 大きい農園をやってお金を儲けるのとは全然違う思考ですね。ワインは、自分で畑もやって作っているドメーヌものの製品と、ぶどうを買って作る製品があるんですけど、やっぱりドメーヌのワインのほうがよりその人があらわれているはずだって思っているので、ワインを作る過程をローストと捉えるなら、ロースターとしては農園はやりたいですね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
謙虚でありながら深く、ひとつのことに思いやりをもって向き合い、大胆に接する。きっと森さんの中では、コーヒーもワインもアイヌ文化も境界線がないんだろうなぁと感じました。聞けば聞くほど、興味深いお話が盛りだくさんの森さんは、11月29日に川越コーヒーフェスティバルミニに来場が決定。トークショーを行います。
そしてなんと、森さんがスペシャルなドリンクを作って下さいます。
お時間あるかたはぜひ、直接森さんのお話聞いてみてくださいね。
インタビュー& 撮影:高綱草子 Kaya Takatsuna
プロフィール
森崇顕 Takaaki MORI
1980年宮崎県延岡市生まれ。上智大学理工学部在学中、美容院で飲んだ一杯のコーヒーがきっかけで、それまで嫌いだったコーヒーに興味を持つ。卒業後は札幌と福岡のコーヒー店で働き、焙煎やマネージメント、店舗開業などに携わる。
その後、中米に渡り、ニカラグアのカサブランカ農園に数ヶ月滞在し、生産現場を経験。
帰国後、2013年11月11日に福岡・久留米に「COFFEE COUNTY」をオープン。
2016年には2店舗目を福岡市内に、2019年には3店舗目「STOCK(ストック)」を天神にオープンする。ストックは、人気パン店「パン・ストック」とのコラボレーションショップ。
また、焙煎大会やカップテイスターズなど、コーヒーの競技会でも常に上位の成績をおさめ、バリスタ大会などでは審査員も務める。
趣味は、自然派ワイン
【トークイベント情報 】
森崇顕トークショー 会場:蓮馨寺埼玉県川越市連雀町7-1
開催日時:2020年11月29日(日)
開始時間:15:30-16:30
定員:20名
参加費: キャンペーンチケット1枚
森さんが作るスペシャルドリンク2種類付き
※トークショーの長さは約60分を予定しております。
※途中室内換気のため、休憩がございます。
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