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コーヒーコンサルタントとして世界に挑み続けるワールドバリスタチャンピオン、井崎英典インタビュー。後編「次のミッションは、Brew Peace(ブリューピース)で社会に貢献していくこと。」Interview: Hidenori IZAKI vol.2, World Barista Champion, CEO of QAHWA.

 

昨年、株式会社QAHWA(カフア)の代表となり、初の著書「ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方」(ダイヤモンド社)も出版、また、これまでの半生をNHKドキュメンタリー「逆転人生」で特集されるなどますます注目を集めているコーヒーコンサルタントの井崎英典さん。

2回にわたってお届けしているスペシャルインタビューの後編は、出版本についてのお話、そして今後の展望や井崎さんが美しいと思うことについて伺いました。

 

―なぜ今、本を出版しようと思いましたか?

僕は長年、プロ向けではなく、コーヒー好きの一般の方に向けた本を書きたいと思っていました。なぜなら、幸せは家庭の日常の中から生まれると思っているからです。つまり家庭のコーヒーが美味しくなればなるほど、より多くの人が心の平安を取り戻せるんじゃないかと常々思っていて。その人にとっての世界で一番美味いコーヒーって、家庭で自分が美味しいと思って飲むコーヒーだと思うんです。この本を出すことで、より多くの人にその価値観を届けたいと思いました。

 

―完成までとても大変だったと思いますが、出版されてみていかがですか?

構想から出版まで2年半かかり、トータル15万字書きました。仕事の合間や移動の飛行機の中などを使って書いていたので時間はかかりましたけど、どうしても自分で全て書きたかった。本当に頑張りましたし、満足いくものができたと自負しています。また、 「ダイヤモンド社」という日本を代表する出版社から出版できたことで、より多くの人に届けられたのでとても嬉しく思っています。

―著書の中で、“美味しさの定義というのは、文化的背景や食生活に影響を受けるし、それによって正解は変わる”とありますが、世界から見た日本の食文化やコーヒーの美味しさの定義というのはどんな感じなのでしょう。

日本人は食に対してストライクゾーンが広いですよね。コーヒーに関して言えば、エスプレッソ文化ではなくて、基本的にフィルターコーヒーを飲むドリップ文化。そのドリップの範疇で、浅い焙煎のものから深いもの、さらには極深まで楽しむことができて、家でコーヒーを飲む文化も定着していますね。味の表現も独特ですよ。例えば「コク」という言葉は、日本ならではだと思います。

 

―コクって独特なのですね。

日本人の表現ですよね。一説によれば、“コク”って 、酸味、苦味、塩味、甘味、うま味の五味が増強された状態らしいです。その中でも旨味は、日本人が比較的感じやすいものですし、遺伝的に日本人は甘味をより早く感じます。でんぷん質を米からずっととってきた歴史があるので、アミラーゼという消化酵素が発達していて、甘味をすぐ感じられるような味蕾細胞を持っているんです。だから日本人が繊細な舌を持っているというのは、あながち間違いではないと思う。ただ、味の捉え方は国によっても違うから、英語で表現する時は凄く苦労しますね。

 

―海外で評価されるコーヒーは、酸味が結構重要なのですか?

いや、世の中のほとんどの人は、基本的にコーヒーは苦いものだと思っていますよ。スペシャルティはほんの一部です。日本は全輸入量の10パーセントがスペシャルティになったと言われていますけど、それはとてつもなく高い割合なんです。

 

―そうなんですね。逆にコーヒーの味で、その国の正解に驚いたことはありますか?

一般的なコーヒーを飲むと、どの国でもびっくりしますけどね。世界には飲んだらお腹壊しそうになるコーヒーもあるし、インスタントみたいなものばかりのところもあるし。コンビニエンスストアで飲めるコーヒーのクオリティひとつとっても、日本は凄くレベル高いです。

―井崎さんご自身はどういうコーヒーがお好きなんですか?

ケースバイケースかな。僕は自分のことを“コーヒー博愛主義者”と思っています。ストライクゾーンめちゃ広いんで。最後まで全部飲めないことはあるけど、本当にどこでもなんでも飲みますから。その点は、僕はかなりノーマルだと思いますよ。それに僕の仕事柄、どういうコーヒーを消費者が飲んでいるかを客観的に知っておかないといけないから、何でも飲まないと消費者の気持ちがわからないと思いますよ。

 

― では、この本はどういう人に読んで欲しいですか?

すでに自分のコーヒー道を持っている人よりも、美味しいコーヒーを家で飲んでみたいけど、どうしたらいいかわからないっていう人に読んで欲しいです。自分好みのコーヒーを探すために必要な知識や心構えが載っているので、僕の本がそこに辿り着くためのコンパスだと思っていただければ嬉しいです。それに、僕のレシピ通りにやる必要はないので、この本をベースに考えてもらって、そこから応用していただければいいなと思ってます。

僕にとって一番嬉しいのは、今まで淹れたことなかったけど、この本を読んで美味しく淹れられましたとか、自分好みのコーヒーを見つけられそうです、みたいなことですね。

—ところで、最近の日本のコーヒー事情はどう捉えていますか?

スペシャルティコーヒーが、価値もマーケットも頭打ちになってきて、だんだん厳しくなっていると思います。それは日本だけじゃなくて全世界共通の悩みになっている。これを大きくしていくために僕たちは何をしていかないといけないかっていうところですよね。つまり、より多くの人がコーヒーを通して一体何ができるのか、コーヒーの価値、人類にとってその価値は何かをもっと哲学的に考える時期にきているんじゃないかって思います。

 

―そうやって考えている人たちってどのくらいいます?

僕が付き合っている人はみんなそう考えていますよね。今一緒に「バリスタハッスル」というオンライン教育システムを作っているオーストラリア人のマット・パーガーも、同世代でめちゃめちゃキレる男ですし、そういう人たちはコーヒーを通してどう価値を築いていくかっていうことを常に考える人たちじゃないですか。

 

—やはり井崎さんの周りには、同じような価値観の方が集まるのですね。

最近シェフの人たちと繋がる機会が多いんですけど、彼らと話していると、バリスタという職業はまだまだ遅れているなという気はしますよね。成功しているシェフは、本当に職業のことを真剣に考えて、料理を通して何ができるかを哲学的に考えています。それに比べたら、バリスタはまだ、「コーヒー淹れられたらそれで幸せ」みたいな人が多い気がしますね。

―それはなぜだと思いますか?

僕はコーヒーが嗜好品であること、その手軽さが良い面でも悪い面でもあるかなと思います。資格もなければ、厳しい修行もする必要ないんで、「僕バリスタです」って言ったらいつでもなれるじゃないですか。でも、少なくとも僕の世代で成功してる人たちは、みんな修行は必要だって言いますよね。 やり方さえ覚えて技術を身につければいいなら、僕がみっちり3か月教えたら、技術だけなら一流になれます。でもそれでイコール素晴らしいバリスタかって言うと、全然そうではないんですよ。

 

—技術より大切なものとは?

大事なのは思考力じゃないですか。論理的な思考力が凄く必要であって、そこに至るまでにはいろんなことをやらないといけないし、遠回りしまくらないとできないと思うんですよ。僕でもそう思うくらいなので、上の世代の人たちなんて尚更そう思ってると思います。

―これから挑戦してみたいことは?

色々ありますね。まずは、より社会に貢献できる組織づくりをしていきたい。会社をIPO(新規上場)したいですね。それって社会にそれだけ貢献できたっていう認識だと思うんですよ。今は僕とオペレーションマネージャーの広田と、それ以外に社外パートナーが3人いるんですが、クリエイティブとマーケティングの第一人者が揃っていて、みんな僕が持ってない強みを持っているので、そういう人たちと一緒にコーヒーを通して平和な世の中を作ることを体現できるような、「Brew Peace(ブリューピース)」な事業をやっていくことで、社会に明確に貢献していきたいです。自分一人でやっていくのは限界があるので、今年から少しずつチームで動けるようにしていきたいと思っています。

 

―まさに「Brew Peace(ブリューピース)」で世界を変えていくのですね。

そうですね。コーヒーがある時間というのは幸せなことだと思っているので、そういう場をどれだけ創出できるかというのが僕の使命だと思ってます。そしてそのコーヒーが少しでも美味しければ、そこにある時間って平和なものになるじゃないですか。でも世の中はまだそうではないんで、心も身体も健康に、幸せになるような世界を作っていくことかなと思ってます。

 

―最後に、井崎さんにとって“美しい”とは何ですか?

やはり心の平安じゃないですか。心が安らかじゃないと、美しいものを美しいと思えないでしょ。僕は美しさっていうのは心の平安から生まれると思っているんで、そのためにコーヒーは重要だと常々思っている。コーヒーを通してそうした時間をプロデュースするのが僕の仕事であって、そうすることで世の中のより多くの人が、美しいものを美しいと素直に感じられるようになると思っています。

 

 

井崎さんの著書「ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方」は、重版されて大好評発売中です。お近くの書店やオンラインで是非ご購入ください。

 

プロフィール

井崎英典 Hidenori IZAKI 

1990年生まれ。福岡県出身。コーヒーコンサルタント
高校中退後、父が経営するコーヒー屋を手伝いながらバリスタに。
法政大学国際文化学部への入学を機に、(株)丸山珈琲に入社。
2012年に史上最年少にてジャパンバリスタチャンピオンシップにて優勝し、2連覇を成し遂げた後、2014年のワールドバリスタチャンピオンシップにてアジア人初の世界チャンピオンとなる。
現在はコンサルタントとしてグローバルに活動を続け、年間200日以上を海外で過ごしつつ、コーヒーエヴァンジェリストとして啓発活動を行なっている。

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